活動レポート

第602回実地医家のための会令和1年11月例会報告

最近話題の「アンガーマネージメント」は、患者さんだけでなく、日々ストレスにさらされている我々自身にも極めて重要です。皆さんも経験されているのではないかと思いますが、訳のわからないことで怒り出すモンスター患者もいれば、怒りをコントロールできないがために子供を虐待したり、危険なあおり運転を繰り返す人間もいます。皆さん自身も怒りで我を忘れるまでのことはなくても、後であんなことで怒らなければよかったと後悔することが多々あるのではないでしょうか。
今回の例会では、自分自身の怒りをコントロールする方法をワークショップ形式で学んでいただき、それを日々の仕事や生活に生かしていただきます。

スケジュール

日時令和1年11月10日(日)13時00分~16時10分
場所東京医科歯科大学 B棟5回
テーマ怒りをコントロールする「アンガーマネージメント」を学ぼう‼︎
講師石橋幸滋先生(石橋クリニック院長)
進行

13時00分〜13時05分開会挨拶
13時05分〜14時30分「アンガーマネジメント実践ワークショップ①〜怒りを理解する〜」
進行 石橋クリニック 石橋幸滋先生
14時30分〜14時40分休憩
14時40分〜16時10分「アンガーマネジメント実践ワークショップ②〜怒りをコントロールする〜」
進行 石橋クリニック 石橋幸滋先生
研修内容

怒りの種類とその起こり方

ストレス・コントロールや良好な人間関係をつくる上で、怒りのコントロールは重要である。怒りっぽいのは性格で、コントロールすることは難しいという人もいるが、怒りは図1のような発生過程を経て生じるものであり、それをコントロールすることは決して難しくはない。
 怒りは、原因となる出来事に遭遇して、その出来事を意味づけしてから怒りが発生するが、そこに自分自身のあるべき論(コアビリーフ)やきっかけとなる考え方(トリガー思考)が影響し、その出来事に意味付けをして、その意味付けに本人の性格や行動パターン、体調やストレスが影響して怒りが発生する。
 そこで怒りは、コアビリーフやトリガー思考、性格、行動パターン、体調、ストレスなどをコントロールすることで抑えることができる。
 また、怒りは決して悪いものではなく、必要な怒り、健全な怒りがある。そこで、怒りに対しては以下のような認識を持つべきである。

• 怒りは人間にとって必要なものである
• 怒りは問題が起きていると知らせるシグナルである
• 怒った時の行動は慎重に選択すべきである
• 怒ることができるからといって必ずしも怒りを表現する必要はない
• 怒りは制御不能にならないように、適度に表すものである
• 大切なのは、怒りを表すことではなく、問題を解決することである
• 怒りを伝える場合は、その人に怒りの理由が理解できるように怒るべきである
• 怒りは一時的なもので、問題が解決されれば消滅するものである

これに対して、問題となる怒りは、以下のような4つのタイプがあり、このタイプの怒りは怒りそのものをコントロールする必要がある。

1. 強度が高い
一度怒り出すと止まらず、強く怒りすぎる
2. 持続性がある
過去の怒りを根に持ち、思い出して怒る
3. 頻度が高い
しょっちゅうイライラする、カチンとくる
4. 攻撃性がある

大声を出す、暴力を振るうなどの攻撃性があり、攻撃の対象は「他人」、「自分」、「もの」がある
また、それぞれの怒りには、①怒りの回避、②陰険な怒り、③内に向けられる怒り、④突然の怒り、⑤恥に基づく怒り、⑥意図的な怒り、⑦興奮するための怒り、⑧習慣的な敵意、⑨恐れに基づく怒り、⑩道徳的な怒り、○11憤り/嫌悪などのスタイルがあり、自分が何のスタイルを多用しているかがわかる質問表を表1に挙げたので。参考にしていただきたい。

[怒りの原因解析]

怒りは様々な原因で起こってくるが、あとで後悔するような怒りも少なくない。怒りはパターン化しているにもかかわらず、案外自分が何に怒っているか忘れてしまうものである。そこで怒りの原因、対象、出来事に対して、なぜ怒ったのかを、本当はどうして欲しかったのかを記録し、その記録を見直して、自分や自分の思いを見直すことで自分の怒りを観察し、客観的にその対処方法を考えることが重要である。
特に大きな怒りや解決が難しい怒りに関しては、以下のような項目を記録する(アンガーログ)ことで、怒りをコントロールしたり、新たな怒りを防ぐことができる場合がある。

1. 日時 : 怒りを感じた日時
2. 出来事 : 怒りの原因となった状況
3. 思ったこと : その状況をどう思ったか
4. 感情 : その時に感じた感情
5. 感情の強さ : 怒りのレベル
6. 行動 : 実際の行動
7. 結果 : 行動した結果

 また、怒りには原因があるが、原因だけでは怒りが発生するわけではなく、怒りを発生させる背景がある。それがコアビリーフとトリガー思考である。
 コアビリーフとは、怒りの背景には自分自身の中に強いこだわり、譲れない価値観「……するべき」があり、それに合致しない場合に怒りが大きくなる。そして、それに加えて自分自身の「べき」に影響する心(道徳心、利己心、自尊心、執着心、警戒心、自立心)があるために怒りの大きさが変わってくる。そのため怒りをコントロールするためには、そのコアビリーフ、「……するべき」の境界を広げる思考のコントロールが求められる。つまり。相手の言葉が自分の価値観と違う場合にも、その相違を埋めるために自分の境界を広げる努力をすることが大切である。
 そして、怒りが表出するきっかけとなるトリガー思考には、①バカにされた、②利用された、③無視された、④認めてもらえない、⑤誰も話を聞いてくれない、⑥なめられた、⑦感謝されない、⑧喜ばれない、⑨見下された、⑩顔に泥を塗られた、○11恥をかかされた、○12だまされた、○13誰も気にかけてくれない、○14裏切られた、○15ないがしろにされた、○16傷つけられた、○17思い通りにいかない、○18容姿をバカにされた、○19人種差別された、○20性別で差別されたなどがあり、このような思考が怒りを増幅する。

[怒りのコントロール]

 一度生じた怒りをそのまま表現する人は少ないと思われるが、怒りをコントロールすることが極めて重要であり、そのための方法を知っておくことは極めて有用である。
1.衝動的な怒りのコントロール
 怒りをコントロールする場合、特に衝動的な怒りをコントロールすることが最も簡単かつ有用である、そのための方法を以下に上げた。

1) ストップシンキング : 頭の中に空白を作る
2) ディレイテクニック : 反応を遅らせる
3) コーピングマントラ : 魔法の呪文を唱える
4) グラウンディング  : 思考を釘づけにする
5) タイムアウト    : 退却戦略→休憩を取る

衝動的な怒りを抑える方法として有名な6秒ルールという方法がある。これは、カッときたらゆっくり6つ数えるという方法で、上記の1と2を組み合わせたような方法である。それ以外にも自分の気分を落ちつけるための「大丈夫話せばわかる」、「私は怒らない」、「気持ちが落ち着いている」などの言葉を繰り返すコーピングマンドラなどを活用するなどいろいろな方法があり、それでもダメな場合は退却戦略(タイムアウト)を取ることで。衝動的な怒りはほとんどコントロールできる。ただし、衝動的な怒りにも大きさがあり、それを評価して怒りを和らげる方法(図2)を活用すると良い。

2.上手に怒る方法

 怒ることがわるわけではく、怒ることによって自分や他人に悪影響を及ぼすことが問題なのである。そこで、上手に起こることでその悪影響を減らす方法として、

1) 原因や過去より、「これからどうしたいか」という未来に焦点をあてる
2) 叱る時には以下の3つを意識する
• 何を一番言いたいかをはっきりさせる
• 叱る時の基準をはっきりさせる
• 何のために叱っているのかはっきり伝える
3) 自分の感情に責任を持つ
• 感情は自分が生み出しているものである
• 怒ってはいけないわけではないが、あんなに怒らなければよかったと後悔するような怒り方をしない

などの方法がある。このような方法を活用して怒りをコントロールすべきである。

3.怒りを回避することのメリットとデメリット

 怒りを回避することが全て良いかと言えば必要な怒りもあるので、以下のようなメリットとデメリットがある。
メリット
• 何に怒り、何に怒らないかを選べる
• エネルギーの節約になる
• 安全を保てる
• 社会的な賞賛を受ける
• 時間を稼げる

デメリット
• 望みのものが手に入らない
• 自分の大切な一部を失うことがある
• 怒りを自分に向けてしまう
• 精神的もしくは身体的な病気になる
• 怒りを詰め込むことで爆発することがある

そして、このデメリットも以下のような方法で、メリットに変化する。
• 自分にとって大切なものを守るために怒りを使う
• 怒りを感じた相手に、自分の望みを正確に伝える
• 怒りを簡単に捨てずに、こだわることが必要な場合もあることを信じる
• 自分は怒りをコントロールできると信じる
• 怒っている自分を客観的に観察できるようになる

4.陰湿な怒りのメリット、デメリット

 一般的に、陰湿な怒りは避けたい怒りではあるが、メリットもないわけではない。

メリット
• 怒っているということを責められることなく怒ることができる
• 激しい怒りを表す人から身を守ることができる
• 自分は怒りを制御しているという思い込みを増長してくれる

デメリット
• 怒り、欲求不満、惨めさなどが継続する場合がある
• 尊敬を失うことがある
• 脆くて弱いという気持ちを持つことが多い
• 孤立することがある
• 前向きなエネルギーが失われることがある

そして、このデメリットを減らす方法として、

• 自分が怒っていて、そのために陰湿な怒りを用いていることに気づく
• 陰湿な怒りを使う人には弱い人が多いが、陰湿な怒りを使うとさらに弱くなることが多いので、怒りに立ち向かっていくことが大切である
• 陰湿な怒りは人を欲求不満にすることが多いが、それを楽しんではいけない
• 人に何か頼まれたら、イエスかノーをはっきり言う

などの方法がある。

[まとめ]

怒りを考えると、怒ることが悪いのではなく、怒りをコントロールできないことが問題である。一方で、怒りはコントロールしすぎて溜め込むことも問題となる場合もある。大切なのは自分がなぜ怒っているのかを知り、それをどのように鎮め、生かすかである。
怒りには必ずその背景となる「自分の気持ちを伝えたい、わかって欲しい」と言う思いが潜んでいる。怒らずに思いを伝える上手なコミュニケーションを身につけることも必要である。そのために聞き上手になることと自己主張をすることが大切である。
 最後に、怒りのコントロール(アンガーマネジメント)をまとめると、

1. 大きな怒りと中くらいの怒りには本当に怒る必要があるとき以外はできるだけ減らした方が良い
2. 小さい怒りは、自分でも気付かないことがあるので、まずは気付くことが大切である
3. 急性の怒りはカラッとしてすぐ消えてしまうものなので、「キレないための応急処置(すぐやる、6秒こらえるなど)が必要である
4. 慢性の怒り(1〜1年続く怒り)に対しては、じっくり考え、記録すること(アンガーログ)が効果的である
5. 超慢性の怒り(子供の頃の恨みなど)に対しては、なぜ怒りが続くのか、本当に怒るべきかを考える

これを理解し、自分のものにしていくことがアンガーマネージメントである。

例会資料