活動レポート

第599回実地医家のための会平成31年1月例会報告

第599回実地医家のための会例会が、平成31年1月11日に下記の内容で開催された。今回の例会は、地方型と都会型の地域医療それぞれの特徴を知り、自分が実践している医療がどのようなもので、それをどのようにより良いものへと変革していくかを考えてもらった。講師には、沖縄県立宮古病院院長の本永英治先生を迎え、沖縄の離島医療についてお話をいただいた。また、都市型地域医療に関しては世話人代表の石橋先生に東京での地域医療についてお話しいただき、それを元に全体ディスカッションを行なった。
それぞれの地域で実践されている医療に違いはあるし、病院で行われている医療と診療所で行われている医療の違いはもちろんあるが、地域では患者の診療だけではなく、予防からリハビリ、保健・医療・福祉・介護にまで渡る総合的な活動が望まれていることが明確となった。また、総合診療医、家庭医、プライマリ・ケア医、かかりつけ医など名称は様々であるが、我々実地医家は都会でも田舎でも求められており、実地医家のための会はその礎となっている。

日時:平成31年1月13日(日)13時00分~16時10分
場所:東京医科歯科大学 B棟5階 症例検討室
テーマ:あなたの実践する医療は、都会型それとも地方型?
司会:外山学先生(益田診療所院長)

内容:
13時00分〜13時05分 開会挨拶
13時05分〜14時05分 「沖縄離島における医療活動から総合診療医、家庭医のあり方を問う〜総合診療医・家庭医の思想〜」講師 沖縄県立宮古病院院長 本永英治先生
14時05分〜14時20分 自由交見
14時20分〜14時30分 休憩
14時30分〜15時30分 「都会における地域医療」講師 石橋クリニック 石橋幸滋先生
15時30分〜15時45分 自由交見
15時45分〜16時10分 全体討論


1.「沖縄離島における医療活動から総合診療医、家庭医のあり方を問う〜総合診療医・家庭医の思想〜」
講師 沖縄県立宮古病院院長 本永英治先生
本村先生が働く宮古島は、南西諸島の宮古群島に属し、沖縄本島から飛行機でも50分ぐらいかかるが、県立宮古病院は最先端の医療設備を持つ近代的な病院である。(スライド1・2参照)
本村先生は、1982年自治医科大学を卒業後、沖縄県立中部病院での研修医や東海大学医学部でのリハビリテーション専門医取得の時期を除いてほとんど離島での医療を担ってきた。(スライド3参照)この離島医療に対するモチベーションを支えてきた三人の師(長野県和合村診療所元所長金子勇先生、わらじ医者として有名な早川一光先生、「医学常識はウソだらけ」の著者で物理・栄養学者三石巌先生)から様々なアドバイス(スライド4・5参照)を得て、現在の自分があると語られたが、実際の離島医療への興味や今後それを自分の一生の仕事にいて行こうと考える一番の要因となった経験は、卒後4年目から2年間の伊是名診療所勤務であった。本村先生はスライド6・7に挙げたような個人記録を残しておられた。この記録をもとに自分の足りないところを明確にして、その後の研修を組み立てていった(スライド8参照)。
また本永先生は、単に勉強だけされていただけではなく、幅広い趣味(郷土史研究家、野鳥観察、民謡など)を持たれ、島の生活を楽しんでいる一面も紹介された(スライド9・10・11参照)。
次に、本永先生の考える総合医像を通して地域医療のあるべき姿を解説された。まず、カナダの家庭医療学教授でマクウィニー家庭医療学(葛西龍樹訳)の著者イアン・マクウィニー教授の著書を引用され、家庭医療学が人間の医学であり、人間関係の観点から定義される。つまり、家庭医は地域のネットワークの一部であり、患者と同じ地域に住み文化、風土を共有するという言葉を本永先生は実践されている(スライド12・13参照)。また、Goldsteinの医療の考え方にある「家庭医療学の方法は新しいパラダイム」を引用(スライド14・15・16参照)され、専門医療と家庭医療の違いを説明された。
そして、沖縄県立宮古病院の総合診療科が果たしている役割(スライド17・18・19・20参照)をご紹介され、専門医と総合診療医の連携の重要性を述べられた。患者中心の医療の方法の思想を持った総合診療医は、責任あるケアの継続性を提供し、患者の未分化の臨床問題を整理し、特に複雑性の高い患者の持つ未分化の臨床問題を整理しケアを提供する使命を持つため、総合診療医が活躍する場所としては、へき地診療所だけではなく高度専門医療機関も考えられる(スライド21・22参照)。
その総合診療医が持つべき臨床能力をスライド23・24に挙げたが、この能力を獲得するために日々努力が必要である。これに加えて今後の課題として、地域の住民を巻き込んだ住民参加による患者ケア実現を目標に、互いに尊敬しあえる関係性を組織内のあらゆるレベルの対人関係で構築する助け合いの文化の醸成を進めていくことに力を注いでいく(スライド25参照)という講演内容であった。


「都会における地域医療」
講師 石橋クリニック 石橋幸滋先生

地域医療は、「地域住民の健康の維持を目的として取り組む医療活動。国の医療計画のなかで、医療が主体的に実施される場として地域をとらえ、医療対策を地域内で完結して行うことを目指している」や、「包括医療(保健予防、疾病治療、後療法および更生医療)を、地域住民に対して社会的に適応し実践すること」、「地域住民が抱える様々な健康上の不安や悩みをしっかり受け止め、適切に対応するとともに、広く住民の生活にも心を配り、安心して暮らすことができるよう、見守り、支える医療活動」などと定義され、都市型地域医療はこれを都市部で実践する医療のことである。
東京都は、高度先進医療の推進、東京の特性を生かした切れ目ない医療連携、地域包括ケアシステムにおける治し、支える医療の充実、安心して暮らせる東京を築く人材の確保の4つを基本目標としたグランドデザインに基づき、がん、脳卒中、心筋梗塞等の心血管疾患、糖尿病及び精神疾患の5疾病と、救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療及び小児医療(小児救急医療を含む)の5事業、加えて在宅医療における医療連携体制の構築を目指し」ている。
加えて、ロコモティブシンドローム、フレイル、肺炎、大腿骨頚部骨折等についても、その対策については他の関連施策(地域包括ケア、地域医療構想、介護保険など)と調和を図りつつ、疾病予防・介護予防等を中心に、医療・介護が連携した総合的な取り組みを行うことになっている(スライド1・2・3参照)。我々医師や医師会は、この計画に基づき、東京の地域医療のさらなる発展を目指して活動をしている。
一方で、日本医師会は、地域の医師すなわち「かかりつけ医」の医療的機能を、

1. 日常行う診療においては、患者の生活背景を把握し、自己の専門性に基づき、医療の継続性を重視した適切な診療を行い、自己の範疇を超えるケースに対しては、地域における連携を駆使して、的確な医療機関への紹介(病診連携・診診連携)を行い、患者にとって最良の解決策を提供する。
2. 自らの守備範囲を医師側の都合で規定せず、患者のもちかける保健、医療、福祉の諸問題に関し、幅広く相談できる医師として全人的視点から対応する。
3. 日常行う診療の他には、地域住民との信頼関係を構築し、健康相談、健診、がん検診、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健等の地域における医療を取り巻く社会的活動、行政活動に積極的に参加するとともに保健・介護・福祉関係者との連携を行う。また、地域の高齢者が少しでも長く地域で生活できるよう在宅医療を推進する。

と定義し、その仕事として

1) 日常病の診療
2) 医療相談、紹介、連携
3) 専門医療の補完
4) 在宅重視の地域ケア
5) 地域づくりを基盤にした予防活動
6) 地域ネットワークづくり
7) 地域を基盤とした研究
8) 教育(患者、住民、専門職、学生など)

の8つを挙げている。これでもわかるように、かかりつけ医の仕事は地域での仕事が極めて重要である。
また、都会のかかりつけ医の機能は、

1. 近接(Accessibility)
地域医療の基本は、患者との距離の近さで、これは都市部においても変わりはない。できるだけ「職住接近」が必要である。それは、患者をいつでも診るためではなく、患者の生活を実感するためである。生活習慣指導や介護相談にのる場合に、その地域に住んでいることが役立つことが少なくない。
もちろん精神的な近さも重要で、何でも気軽に相談できる関係は、人間関係が希薄になった都会では極めて貴重である。

2. 包括(Comprehensiveness)
予防からリハビリテーションまで、保健と介護・福祉を包括した医療を行う。特に重要な役割として注目されているのが、生活習慣病予防、在宅療養、災害医療、学校医・産業医活動などである。これらをきちんとできる医師が、都会でも求められている。

3. 協働(Collaboration)
地域医療は、保健・医療・介護・福祉など広い守備範囲を持っているため、一人の医師で全に対処することはできない。病院や地域の専門医との病病、病診、診診連携が不可欠であるし、歯科医や薬剤師、看護師、栄養士等の医療関連職種だけでなく、保健や介護・福祉関係者との連携も重要である。
特に都市部では多くの保健・医療・福祉資源があり、多くのコメディカルスタッフがいるので、多職種が有機的に結合し、チームで動かなければならない。

4. 情報技術(Information Technology)
現代社会には情報が氾濫している。医療・健康情報が巷に溢れ、人々は混乱している。それを患者に合わせて提供できる医師が求められており。地域医療を担う医師は、情報を選択して患者に提供すると同時に、地域に向けて情報を発信する存在になるべきである。
加えて、地域の医療機関や介護・福祉機関との情報共有ができるとより地域医療の充実が図れる。

5. 地域づくり(Community Promotion)
地域医療を担う医師の役割として、地域づくりが挙げられる。地域に必要な健康・福祉資源を充実させることは、政治の役割のように思われがちであるが、医師として、住民として、地域に必要な医療・健康・介護・福祉資源をつくり出したり、その必要性を住民や行政、そして政治家に認識させることは、地域医療を担う医師の使命である。都会でも地区医師会の力を活用して、積極的に地域の健康づくりに取り組むべきである。
以上のような機能が都市部では求められているが、この役割は地方型地域医療の役割と大きな違いはない。そして、それを果たす「かかりつけ医」と「総合診療医」は、その求められる能力において大きな違いはない。つまり、総合診療医すなわち実地医家は、自分の能力に合わせたところで働く医師ではなく、自分が働く地域の特性に合わせて自分の持つ能力を発揮できる医師であ理、地域医療の担い手として中心的役割を果たすべき医師であろう。

文責 石橋幸滋

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