活動レポート

第596回実地医家のための会平成30年7月例会報告

第596回実地医家のための会例会が下記の様に開催されましたので、その内容を報告します。

日 時:平成30年7月8日(日)13時00分~16時10分
場 所:東京医科歯科大学 B棟5階 症例検討室
テーマ:人生の終末期を患者と共に考えよう
司 会:石橋幸滋先生(実地医家のための会世話人世話人代表)
13:00~13:05 開会挨拶
13:05~13:50 「アドバンス ケア プランニングAdvance Care Planning」
講師 東久留米白十字訪問看護ステーション所長 中島知子様
13:50~14:05 自由交見
14:05~14:45 「地域の多職種によるエンディングノート作成の経験から」
講師 益田診療所 外山学先生
14:45~15:00 自由交見
15:00~15:10 休憩
15:10~16:10 グループワーク「この患者の終末期にどう向かい合いますか」
今回の例会は、患者さんの終末期にどう対応するか、医療関係者は何を準備すべきか、どのように話をするかなどについて、アドバンス ケア プランニングAdvance Care 合う自発的なプロセス)の考え方を学ぶと共に、実際の症例を通して私たち医療者がどのように対応すべきかを話し合った。

1.アドバンス ケア プランニングAdvance Care Planning」
講師 東久留米白十字訪問看護ステーション所長 中島知子様

 最初に中島講師の略歴、東久留米白十字訪問看護ステーションの活動について紹介(スライド2−6)があり、続いてアドバンスケアプランニング(以下ACPと略)の定義、考え方、エンドオブライフディスカッションとの違いなどの説明(スライド7−9)の後、今の日本の超高齢化社会においてACPが必要な理由、国民の再起を迎えた場所や介護を受けたい場所に関するアンケート結果(スライド10−13)を紹介された。
 ACPは、患者自身が自分の人生感・信念・価値観・死生観を含めて、自分の意思に沿った治療方針や看護・介護の方向性を、患者を中心にしたチーム員全員が共有し、同じ方向で医療・ケアを提供していく過程である。そのためACPの話し合いでは、患者の状況、患者が大切にしたいこと、医療やケアについての希望について話し合う必要があり、患者の意向や医学・看護判断、家族・周囲の意向などについて話し合うべき内容につて説明があった(スライド14−19)。
そのためには、チームアプローチが必要であり、チームの中での意見を一致させることが重要である。しかし、時にはチーム内の意見が違うことはよく経験されることであり、その溝を埋めるために臨床倫理におけるジャンセンらの4分割法が有用である。4分割法とは、症例の状況を医学的適応、患者の意向、周囲の状況、QOLの4つに順に検討していき、患者や家族にとって最もQOLに寄与できる方法を検討していく方法である。この場合、重要視されるのが、医療における臨床倫理の4原則(自律尊重原則、善行原則、無危害原則、正義原則)である(スライド20−33)。
この原則を守りながら、患者の倫理的な問題を検討していくのではあるが、その場合「患者の権利に関するリスボン宣言」や「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」、「高齢者ケアの意思決定プロセスに関するガイドライン」などを参考にすると良い(スライド34−36)。
これらの考え方をもとに実際の症例検討を行った(スライド37−38)が、これからさらにこのACPの考え方を広めていくことの重要性を紹介して講演を終えた。

2.地域の多職種によるエンディングノート作成の経験から」
   益田診療所(大阪府門真市)  外山 学

 第578回例会(2015年12月)において、地域の多職種によるエンディングノート作成の試みについて、発表した<*1>。現在では、ACPの普及活動が盛んになり、日本医師会も啓発のためのパンフレットを作成している<*2>。しかし、やみくもに診察室で実行しようとしても、患者がかかりつけ医の日常診療に求めているものとすれ違ったり、不治の病にかかっていることを隠しているのではないかとの誤解を招くことさえある。いざというときのことを考えるといっても、まだまだ先と思っている場合には、我が事として真剣に捉えにくく、一方、実際に迫ってきたと感じると、縁起でもないことは遠ざけたいとなり、現実的に冷静に考えられる期間の幅は、意外に短い。入院は良いきっかけになるが、退院してすっかり治った状態になると、忘れることもある。
 それでも社会の風向きは、確実に変わっている。厚生労働省が2007年5月に作成した「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」が、この3月に「同医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」に改訂された。国は、当初用いていた「末期医療」の言葉(がんや植物状態を想定)を、2004年に「終末期医療」に言い換え(高齢化や長期の療養状態を考慮)、2014年からは、最期まで本人の生き方(人生)を尊重した医療・ケアの提供が重要として「人生の最終段階における医療」を使用している。このため、2007年版のガイドライン(以下、GL)は、2015年3月に“終末期”から“人生の最終段階における”へ、文言の変更のみの改訂が実施されている。
 2007年版GLの特徴は、
1) 2006年3月、富山県射水市における人工呼吸器取り外し事件の報道を契機に尊厳死ルール化の議論が活発になったことを受け、回復の見込みのない末期患者に対する意思確認の方法や医療内容の決定手続きが課題
2) 刑事責任を問われないように本人の意思確認と、医師独断ではない医療・ケアチームでの対応を強調
である。
 一方、2018年版GLでは、
1) 高齢多死社会の進行に伴い在宅や施設における療養や看取りの需要の増大が背景
2) 延命を望まない者の医療処置や搬送が行われる可能性、地域包括ケア構築(望む場所で治療を受け、自分らしい暮らしを最期まで続けられる環境の整備)が課題
3) 在宅医療・介護の現場での活用も想定、チームに介護従事者を含む事を明確化、ACPの取組の重要性を強調
が特徴となる。
 2007版GLの本文及び解説編では、「病状の変化、医学的評価の変更に応じて、その都度説明し患者の意思の再確認を行うことが必要」、「患者が拒まない限り、決定内容を家族にも知らせることが望ましい」との記載があるが、2018年版では「本人の意思が変化しうるものであることから、家族等の信頼できる者も含めて、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要」、「特定の家族等を、自らの意思を推定する者として、前もって定めておくことも重要」、「特定の家族等とは、今後、単身世帯が増えることも想定し、親しい友人等を含み、複数人の存在も考えられる」、「医療・ケアチームは、本人の人生観や価値観、どのような生き方を望むかを含め、できる限り把握することが必要」などの表現がある。
 これらの考え方を具体化したものとして、厚労省検討会の委員の木澤義之先生(神戸大学)が編集したパンフレットがわかりやすい<*3>。そこでは、命の危機が迫った状態になると約4分の3の人が、これからの治療やケアなどについて自分で決めたり伝えたりできなくなるとして、信頼できる人と話し合い、いわゆる医療代理人として伝えておくことが勧められている。そして状態が悪化し、自分の考えが伝えられなくなった時に、自分の考えと医療代理人の考え方が違う時の“任せ具合”の選択肢も挙げている(私の望んでいたとおりにしてほしい/私の希望を基本として医療・介護従事者と医療代理人で相談して決めてほしい/私の希望と違っても医療・介護従事者と医療代理人で相談して決めて良い)。
 他にも近年、医師会や学会から、終末期医療に関する提言等が出されている<*4〜7>。
(終末期)医療における意思表示の方法には、DNAR、事前指示(アドバンス・ディレクティブ)、ACPなどがあるが、近年米国では、POLST(Physician Orders for Life Sustaining Treatment;生命を脅かす疾患に直面している患者の医療処置に関する医師による指示書)が普及してきている。
 これは、患者と相談の上、医師が指示としてカルテに記載し患者も携帯するもので、典型的な対象は、医療専門職が“1年以内に死亡しても驚かない”重症・進行性疾患に罹患した患者あるいはフレイル状態にある個人である。主治医がいない場面でも、生命維持治療にあたる医師や看護師への指示として有効であり、救急医療の場でより確実に生かされるシステムを目指している。ちなみに日本版POLSTは、日本臨床倫理学会が指針を作成している<*8>。
 これらの取り組みを、多岐にするか絞り込みか、効力重視(フォーマット指向)かプロセス重視(コミュニケーション指向)かで、座標軸にプロットして検討することも可能であるが、誤解を恐れずに極言すれば、医療側の都合からの発想ともいえる。
 人の死にあたって必要な準備は、医療に関する事柄だけではない。いわゆる“終活”のひとつとして、さまざまなことが書かれるのがエンディングノートである。その要素を大きく分類すると、
• 危機管理:緊急連絡先、重要物情報
• 財産(含負債):但し法的に有効なのは遺言
• 始末・整理:葬儀や墓・収集物
• 自分自身のこと:生き方・価値観
• 医療や介護の希望:いざという時の意思表示
などとなるが、最後の2者は切っても切り離せない関係にあり、単独で考えても良い答えは出せないものと思われる。
 現実的には、急変時にノートを捜し出してじっくり読んではいられないし、外出先で意識不明となることもありうる。ある高齢女性は、大きな朱書きの「DNR(蘇生拒否)」とともに、氏名、生年月日、住所・電話、緊急連絡先、かかりつけ医の連絡先をカード大の紙に書いてラップでくるみ、常に下着と胸の間に入れている。内容を最小限に絞り込んだ携帯型意思表示と、広がりや深さを持つエンディングノートは、“対”の関係と言える。
 とはいえ、残念ながら、全てが計画通りに運ぶとは限らない。当初の希望(理想)どおりではなくとも「それはそれで悪くはなかった」と思えるためにも、エンディングノートなどで、考え方や生き方を掘り下げておくことが役立つと思われる。
 当地で4年前に作成したエンディングノートは、まだまだ使用実績が多いとは言えず、現在、改訂(再チャレンジ)に向けて作業中である。診察室で、医師から持ち出す話題としては馴染まないことも多いため、待合室掲示物の活用や、市民向け講演会の開催など、患者の方から話題にしてもらえる仕かけ作りも、併せて重要である。と同時に、より患者の生活に近いところで支援する多職種の力は大きく、医師が及ばない影響力を持つ。多職種で編集し、チームとして活動できるようになることが、極めて大切と考える。

<参考・引用>
*1)外山学. 私らしく“生ききる”ことを支えたい~地域の多職種によるエンディングノート作成の試み~.人間の医学.2016;51(2):21-24.(実地医家のための会ウエブサイト,http://www.jicchi-ika.jp/gp/pdf/252.pdf)
*2)終末期医療 アドバンス・ケア・プランニング(ACP)から考える,日本医師会ウエブサイト,http://www.med.or.jp/doctor/rinri/i_rinri/006612.html
*3)これからの治療・ケアに関する話し合い -アドバンス・ケア・プランニング-,厚生労働省ウエブサイト,https://square.umin.ac.jp/endoflife/shimin01/img/date/pdf/EOL_shimin_A4_text_0416.pdf
*4)第XV次 生命倫理懇談会 答申 超高齢社会と終末期医療,日本医師会ウエブサイト, http://dl.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20171206_1.pdf
*5)救急・集中治療における終末期医療に関するガイドライン~3学会からの提言~(日本救急医学会、日本集中治療医学会、日本循環器学会),日本集中治療医学会ウエブサイト,http://www.jsicm.org/pdf/1guidelines1410.pdf
*6)Do Not Attempt Resuscitation (DNAR) 指示のあり方についての勧告,日本集中治療医学会ウエブサイト, http://www.jsicm.org/pdf/DNAR20170105.pdf
*7)人生の最終段階にある傷病者の意思に沿った救急現場での心肺蘇生等のあり方に関する提言,日本臨床救急医学会ウエブサイト, http://jsem.me/wp-content/uploads/2017/04/臨床救急医学会提言(公表用).pdf
*8)日本版POLST作成指針,日本臨床倫理学会ウエブサイト, http://square.umin.ac.jp/j-ethics/workinggroup.htm
(全て、2018年7月25日アクセス確認)

例会資料